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ヴィカス・ブターニー(Vikas Butaney:20201029

シスコ

バイス プレジデント 兼 ジェネラルマネージャー、IoTプロダクト マネージメント

我が家では宅配で荷物が届くと大騒ぎしますが、皆さんはどうでしょう? しかし、こうした荷物もその中味も、そのほとんどが実は他のたくさんの荷物と一緒に長い長い旅を経てやってくるのです。

世界の海運業界自体、巨大な産業です。2019年の年間収益は87億米ドルで、2026年には120億米ドルを突破すると予測されています。しかもこれは貨物を含まない数字です。今年、Amazonだけでも、オンラインストアの売上が1,640億米ドルに上ります。数量でいえば、世界の貿易物資の90%が海路で輸送されています。今、全世界で操業中の約53,000隻の商船のうち5,000隻がコンテナ貨物船で、最大級のコンテナ船になると20,000個以上のコンテナを積んでいます。米国だけでも、海洋以外に湖や河川を含め、官営、民営あわせておよそ360の商業港があり、それぞれが貨物船、はしけ、トラック、鉄道の間で貨物を移送するための港湾設備を備えているのです。写真を見ていただくとわかるでしょう。

船で輸送されるこうしたすべての貨物は港へと運ばれ、そこで次の旅程へと出発することになります。こうしたプロセスの裏には非常に込み入ったさまざまな仕組みがあります。巨大な貨物船の入港時、港でどのようなことが起きているのか、想像してみたことがありますか?

まず、貨物ターミナル自体が非常に複雑で、危険な環境です。商品を詰め込んだ何千個ものコンテナを積んだコンテナ船が港に入ると、その積荷を下さなければなりません。巨大なコンテナ船の積み下ろしにはクレーンが使われます。船から降ろされたコンテナはさまざまな車両によって運ばれて積み上げられ、今度はトラックや列車に積み込まれます。こうした「マルチモデル」港では航空機以外のありとあらゆる種類の輸送手段に対応しています。

規模と複雑さの両面で、これらすべてをうまく調整できるようにすることは非常に大変な課題であり、これは自動化にとって絶好の挑戦になります。

デジタル化への道

港湾業務において最もデジタル化が進められている領域が、ターミナル・オペレーティング・システム(TOS)です。TOSシステムでは港湾において、所有者が誰かに関わらずあらゆるアセットを追跡します。港湾業務にはさまざまな関係者が関与しているからです。1つの会社が物理的に港湾を所有し、運営を行います。これが港湾当局です。それから運輸、運送などを行う会社があります。紙のチケットでそうした多種多様な企業や組織の調整を図るには、信じられないほど手間も時間もかかり、いくつものミスが重なることになります。

優れたTOSが導入されていれば、港湾当局はクレーンやトラックの1つ1つが何の作業にあたっているのか、次にどの船が入港するのか、貨物列車の到着予定があるのかどうか、と言ったことを把握できます。その上で自動的に、貨物の出荷や積み下ろしを時間通りに行って、効率的な港湾業務を実現できます。

遠隔操作への移行

一旦どのようなアセットがどこで、どのような動きをしているのを把握すれば、遠隔操作で効率と安全を高め、人々を危険から遠ざけることができます。港湾の荷役作業に用いられる車両は、過酷な天候や危険な作業状況を伴う屋外環境で運転され、毎年、何人もの命が失われます。スタックからのコンテナの安全な積み下ろしをスピードアップすればするほど、港湾業務に携わるすべての会社の業務効率も採算性も高まります。

巨大クレーンの操作がどれほど複雑かを考えてみましょう。映画で、銃撃戦に巻き込まれた主人公がうずたかく積まれたコンテナの間を走り回る場面は誰にとてもおなじみのシーンでしょう。しかし現実の世界では、本当に危険なのは、そこにある機械設備なのです。船対岸用クレーンはバースを上下に移動して巨大な貨物船からコンテナを降ろします。

クレーンは10~15階建のビルの高さがあり、ちょっと考えただけでもどれだけ高いかわかるでしょう。アメリカンフットボールのゴールポストの高さは35フィート(10.67m)なので、クレーンはその3~4倍も高いのです。しかも、クレーンの運転士はクレーンの一番上まで階段で上がらなければならないと聞けば、もっと驚くでしょう。シフトに入る際に上に登り、休憩を取るにも下まで降りなければなりません。そしてまた、上まで登るのです。運転中は、10数個あるカメラを頼りに起重機を上げ下げしなければなりません。一見してわかる危険だけでなく、こうした環境での作業の疲労度も相当なものです。

しかし、もしここに遠隔オペレーションのシナリオが加わり、オペレーターを地上に配置できるようにすれば、状況はすべて変えられます。オペレーターは安全な環境にいて、いつでも休憩でき、危険な階段の上り下りに時間を取られることもなくなります。遠隔操作は効率化を実現するだけでなく、港湾作業のような過酷な環境で、人の命を救うことにもなるのです。

こうした遠隔操作を可能にする前には、重大な障害があります。港湾作業における障害をすべて洗い出してみましょう。貨物ヤードに積み上げられたコンテナは金属製の建物のようなもので、大抵、6個程度のコンテナの山がぎっしりと並んでいます。言ってみれば金属でできた街のようなものであり、接続性にとっては最悪の環境にあるということです。遠隔操作のためには10数本の高画質の動画配信が行えなければならず、広帯域幅のネットワークが必要です。従来のRFやセルラー通信では、十分な強度や信頼性がなかなか得られません。そのため、すべての遠隔操作の基盤となるのが超強力な無線通信と信頼性の高いネットワークなのです。

 無人運転による24時間港の実現

自律運転への移行はさまざまな港湾業務を変え、港を変革します。自律運転を導入することで、24×7(年中無休、24時間)操業の港は現実のものになり、海運業界のエコシステム全体でより効率的な運営が可能になって、天候や生産の変動、公衆衛生上の危機などによって常に生じる、避けようのない変更にも対応できるようになります。

自動化はあらゆる業務における安全性の向上にも役立ちます。巨大なタイヤ式ガントリークレーン(RTG)システムやレールマウントガントリークレーン(RMG)から自動シャトル運搬機や無人搬送車まで、作業工程が自動化されればされるほど、そこで働く人たちの安全は改善します。

安全性や効率性以外だけでなく、自動化は採算性の向上にもつながります。港やターミナルはますます大型の貨物船を受け入れたいと考えるようになっており、自動操業化を進めることによって、船舶が大型化しても、作業員にとっても港湾施設にとってもより安全に入港させられるようになります。

大型船がドックに入る際、巨大な舫い綱が投げられます。船は潮流や波、風に影響を受け、構造物にぶつかります。桟橋の壁が海に崩落するのに時間はかかりません。

自動化は全体の方程式を変えます。岸壁に設置されたセンサーは、どの船がどのようなダメージの原因になっているのかについての洞察を提供できます。これによってスラスターの位置決めを制御する自動運転の船が常に岸壁から一定の安全な距離を保てるというメリットもあります。港湾運営者にとっても船舶の大型化でより多くの利益が上がり、自動運転船がドックに入ることでコストも削減でき、双方が得をするWin-Winの状況になります。

自動化の実現

シスコのような企業は、こうした複雑さをどのように解消しようとしているのでしょうか? これまで見てきた巨大クレーンは港にとって不可欠な存在であり、自動化はこれまで非常に困難と考えられてきました。世界中のRTG船団の多くはディーゼルエンジンを搭載しており、RTGにケーブルを通すには非常にコストがかかることから現実的ではないことも多く、RTGの自動化のオプションは極めて限られています。

この難題を解消するために、Cisco FluidmeshはKonecranesと提携し(リンク先資料は[英語])、接続性の問題を解決して世界初の100%ワイヤレスのタイヤ式自律型ガントリークレーン(RTG)システムを実現しました。これにより、コンテナターミナルのオペレーターは、ファイバーやケーブルスプールを走らせることなく、コンテナヤード内のRTGの遠隔制御や自動化を導入して、コストも時間も大幅に削減できるようになりました。

シスコのワイヤレスMPLSをベースとした技術は、すでに世界中の多数の自動運転システムによって実証されており、802.11のWi-Fi規格やLTEを提供できない場所での自動化を実現しています。シームレスなローミング、超低遅延、高スループットの無線ネットワークに重点を置くことで、基幹システムの自動化に対するオペレーターの信頼を得るために必要な安定性やセキュリティを実現しています。

シスコの顧客の1つであるマルタ港の例を見てみましょう。マルタ・フリーポートは、有力な積み替え輸送ハブ港湾として、30年以上にわたって地中海におけるコンテナ輸送市場で重要な役割を果たしてきました。安全性や効率性のための自動化の重要性を認識しているこのマルタ・フリーポート・ターミナルでは今、驚くべき進化が起こりつつあります。Cisco Fluidmeshの無線接続を使用して、Quaysideクレーン、RTG、ヤード機器など現在および将来のすべての可動資産をシームレスに統合し、ゼロパケットロス、低レイテンシーのローミング無線バックボーンを構築しようとしているのです。

マルタ・フリーポート・ターミナルのIT統括責任者であるJesmond Baldacchino氏は次のように述べています。「元々、私たちはFluidmeshのシステムをQuaysideクレーンだけに使用するつもりでした。しかし後になって、RTG船団にもすばらしい可能性を提供してくれることがわかりました。当社が現在進めているIoTプロジェクトやビッグデータプロジェクトを補完するこのシステムのおかげで、以前なら非常に困難だった、ターミナルエリア一帯を完全に無線でカバーできる体制が整いました」

マルタ・フリーポート・ターミナルのストーリー全体は、こちらでご参照いただけます。[英語]

自律型オペレーションの基盤となるセキュアで信頼性の高いネットワーク

自律型オペレーションの成功の秘訣はどこにあるのでしょうか? セキュアで信頼性の高いシスコのIoT向けネットワークをシステム全体に導入することで、デバイスから車両、データ、クラウドまで、あらゆるものを接続し、自律型オペレーションが適切なデータを得て、適切なタイミングで確実に適切な判断が下せるようにします。自律型オペレーションはエッジにおける鮮度の高いデータに依存しており、こうしたデータはその瞬間、瞬間にしか価値はありません。

同様に、自律型のオペレーションは、システム全体の安全が確保されて初めて成功するものです。ネットワークがハッキングされると、犯罪者によって自律型オペレーションが乗っ取られる危険性があります。クレーンが貨物を落としたらどうなるでしょうか。あるいはAGVが間違った経路に迂回されてしまい、事故を引き起こすかもしれません。ビジネスを自律型オペレーションにまかせるには、ネットワークが信頼できなければならないのです。

 下記を参考に、さっそく今日から自動化に着手しましょう

  • あらゆる場所のあらゆる資産を接続できるシスコのIndustrial Asset Vision [英語]とシスコの産業IoT製品
  • 移動中のアセットに接続性と信頼性の高いバックホールを提供するFluidmesh [英語]
  • シスコのCyber Visionによるデバイスの発見とセキュリティについて
  • 港湾の最適化と、港湾のように困難なRF環境における移動中データの基盤技術のブループリントであるCisco Connected Rail Validated Designの詳細 [英語]

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* 米国で発表されブログの内容は、以下をご参照ください。
https://blogs.cisco.com/internet-of-things/ports-a-complex-environment-transforming-with-automation